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Opinion

東京海洋大学 学術研究院 流通情報工学部門 教授 黒川 久幸 氏

「物流の2024年問題」製造業にも大打撃

トラックによる長距離輸送が難しくなる「物流の2024年問題」は、製造業にも大きな影響を与えそうだ。既に中継拠点の設置や生産拠点の分散化に取り組む企業も出てきているが、まだまだ十分対策が施されていない現状もある。製造業の物流改善の状況と取り組み方について、東京海洋大学・学術研究院流通情報工学部門の黒川久幸教授に聞いた。

物流改善の肝は経営層の変革

――「物流の2024年問題」は製造業を中心とした荷主企業にどのような影響を与えると考えられますか。

これまでの製造業はコストを抑えるため、ある製品の製造を一つの拠点が集中的に担うケースが多く、全国への配送はトラックの長距離輸送頼りの体制を構築してきました。そのため、長距離輸送自体が難しくなる2024年問題は、これまでの体制では製造した物が運べなくなる大きな危機であると考えられています。加えて、物流費は10年代から少しずつ上がってきていますが、当然さらに上昇するとみられており、そこにどう対処するかが問われています。ある食品加工会社では、物流費の高騰を機に広告宣伝費や販売手数料などの販管費を下げたところ、在庫の回転率が悪くなって経営が悪化したというケースもあります。短絡的な判断をして本来かけるべきコストを削ってしまうと致命的になるのが物流改善です。

――物流改革の現状は。

22年に(公財)日本ロジスティクスシステム協会で行った物流現場改善活動に関するアンケートでは、会員各社の自動化・機械化の状況についても聞いています(対象企業131社)。自動化・機械化に既に対応している企業が37%、対応すべき取り組みを進めているのが41%、まだ取り組めていないのが22%という結果でした。今はもう少し進んでいると思いますが、対応が完了している企業はまだ4割弱です。

■経営的判断が重要

――対策が進まない理由は。

改善を現場任せにしてしまっている点が理由だと思います。従来の改善は現状を見て、問題を発見して、それを直していくといった分析的アプローチで解決できるケースがほとんどでした。こうしたアプローチは現場での改善に適しています。一方で、今求められている物流改善はAGV/AMRや自動倉庫、パレタイジングロボットなどの新たな設備を活用したもの。業務内容や働き方がまるっきり変わってしまいます。導入後の理想のイメージを掲げることが重要で、その上で機器・設備を選定する設計的アプローチが必要になります。ここを現場任せにすると理想の状態がわからず計画が進まなかったり、様々な思惑が反映された結果、思ったよりも成果が出ないといった事態に陥ります。

――ボトムアップ型では難しい。

 大きな設備投資が必要になるので経営的な判断は必須ですが、加えて、従業員にとって現場改善に取り組んだら就労時間が減って得られる給料も減ってしまうのであれば、改善へのモチベーションは働きません。従業員満足の視点が重要で、改善を行っている人にとって自分の行動が正当に評価されていると感じられるように現場の仕組みを変えるとともに、業績評価の仕方や働き方、賃金のありかたも一緒に見直す必要があります。いずれも経営層の判断が必要になるものです。つまり、物流改善を継続的に行っていくには経営層の意識改革と明確な意思決定が最も重要であり、そこが物流改善の最初の一歩と言っても過言ではありません。

■人材育成が課題

――4月以降、状況は刻々と悪化していきます。経営層の意識改革に並行して取り組みを進めていくべきことはありますか。

とにかく専門性のある人材が足りなくなるとみられています。設計的アプローチをとるためには、現在の業務量や年間の変動率などのデータを取得・分析できなければなりません。人材を確保・育成するための体制を早期に築く必要があると思います。既に、動きの速い企業では製品設計などの段階から物流担当者を関わらせる企業も出てきています。私の大学の学生も以前は運輸業や物流業が就職先の中心で、製造業には定員42人の内1人行くか行かないかの状況でしたが、最近では10人弱の生徒が製造業系に就職する年も出てきています。

――社内向けの取り組みについても教えてください。

これからの時代、荷主から言われた条件のまま仕事をしていては現場が成り立たなくなります。そうした意味でも物流業界の現状を従業員に理解してもらい、その上で荷主企業に条件をこう変えると物流にとってこういうメリットが出て、お客さんにとってはこうしたメリットが出ますといった提案ができるよう、社員を教育していく必要があると思います。条件自体を変えていいという意識に変えていくことで、荷主と物流業者双方にとって良い関係を築くことができると思います。だからこそ、経営層が社員にしっかりと向かう方向を示し、経営的な改善を実行していく必要があります。

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